患者さんご家族体験談 しっかりのぞむ NF1と暮らすこれから

自分は愛されている大切な存在ー
その自覚が、困難を乗り越える力となる

NF1の可能性を指摘される、あるいは確定診断に至ることは、患者さんやご家族に大きな不安や戸惑いをもたらす場合が少なくありません。
しかし、丁寧に日々を重ねてNF1と“ともに生きる”道を歩む方々も多くおられます。
ここでは、そうしたNF1と暮らす日々に向けたヒントを、患者さんのお母様の経験を通して紹介します。

ー語ってくれた人

女児の患者さんのお母様(40代)

患者さんご本人は10歳で小学5年生(2021年12月現在)。生後4か月にNF1を疑う症状で受診し、1歳前に確定診断を受ける。

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ー語ってくれた人

患者さんのお母様(40代)

患者さんご本人は10歳で小学5年生(2021年12月現在)。生後4か月にNF1を疑う症状で受診し、1歳前に確定診断を受ける。

あざの多さと左⾜の 彎曲 わんきょく にNF1を疑う不安さ。お⼦さんの姿に励まされる

患者である娘は現在10歳。右耳の下に腫瘍があり左足が彎曲しています。

症状に気づいたのは生後3か月のとき。あざやしみのようなものが多くみられる、左足が彎曲している気がするなど、私の医療従事者としての感覚から通常と違う印象を覚えたのです。そこで診察を受けたところ、カフェ・オ・レ斑などの症状が疑われNF1かもしれないと告げられました。

インターネットで検索すると衝撃的な画像も多く、そのようなこともあってひどく落ち込み、泣いてしまった記憶があります。それでも小さな娘は笑っている。生後8か月で左足に装具を着けたときも、そんなことは気にせずにハイハイをしていました。今でもそうですが、こうした娘の姿には励まされています。また、NF1をよく知ろうとするときは、巷の情報に翻弄されずに主治医の先生とよく話すことも大切かもしれません。

NF1と暮らすためのヒント

気になった症状による早期受診は、今後のためにも非常に大切です。しかし、その際にインターネットなどで情報を検索すると衝撃的なものや不正確なものも多く、それは事実と向き合うことを難しくしたり過剰な不安をあおったりします。ですから、医師との対話などによる正確な情報の把握は、NF1という体質を持ちながら暮らす上でとても重要なことでしょう。

1歳前に診断が確定。進⾏の早さに⼾惑い、いまだ現実を受け⼊れきれず

1歳になる直前にNF1と確定診断され、とにかくいろいろなことを知ろうと徹底的に医師には質問を重ねてきました。しかし、病気の進行は予断を許さず、2歳になる少し前からはおたふく風邪のような右頬の腫れを周囲によく指摘され、気になっていたところ腫瘍の疑いもあるとして、かかりつけ医の先生から検査を勧められました。その結果、NF1による腫瘍であることが判明します。こうしたことは思春期からだと思っていた私は大きなショックを受け、「とにかく行くしかない」の一心で無我夢中で病院に通い続けました。ですが、3歳あたりからは人前で話さなくなり、その症状でも診てもらい検査などを経たところ、5歳のときに場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)という診断を告げられます。このとき、場面緘黙症の発症には右頬の腫瘍による聴力低下が関わった疑いもあると説明されました。

やがて場面緘黙症は、主治医の先生のアドバイスにしたがい、自発的なコミュニケーションを促す接し方をしたほか、言語・作業療法を取り入れ、周囲の理解や協力、何よりも本人の前向きな気持ちもあり一歩ずつ治まっていきました。しかし、人前で発表もできるようになってきた小学校中学年頃、今度は腫瘍が気道を塞ぐ可能性があると告げられます。このままでは呼吸ができなくなるので、気管切開の手術が必要というのです。せっかく明るい兆しが見えていたのに、気管切開という厳しい現実に、とにかくショックを受けました。

現在は腫瘍が徐々に大きくなっている以外は大きな変化はなく、経過観察中です。気管切開はまだですが、遠からず避けては通れません。必要な手術であることはわかっています。しかし、正直なところ、その現実をまだ受け入れきれてはいません。ただ、いつもよく笑う子ですので、それを見ると落ち込んでばかりもいられないという気持ちになります。

NF1と暮らすためのヒント

症状の進行やあらわれかたの予想がつかず、その現実が受け入れがたいこともあるかもしれません。こうしたときは主治医の先生や患者会などで心境を話すなど、ご家族自身の心的なサポートも必要でしょう。また、病気の当事者であるお子さんの屈託のない様子も励みになるかもしれません。

*場⾯緘黙症:家などでは問題なく話せるのに、学校などの環境では話せない症状が1か⽉以上続く。勉学やコミュニケーションを妨げる要因ともなる

本⼈にも周囲にも、ありのままを伝える

本人にも周囲にも、現在の状況をありのままに伝えています。娘の場合、骨折は非常に大きなリスクです。飛んだり跳ねたりという骨折につながるような日常動作は、できるだけ避けなければいけません。そのことを本人はもちろんですが、学校の先生や友だちにも理解しておいてもらう必要があります。そのため、現在の状況や日常の注意事項は包み隠さず伝えています。もし、なかなかそれがうまくいかないという状況があれば、患者会などには多くの事例があると思いますから相談されてもいいかもしれません。

腫瘍や装具を隠したいと思ったことは確かにあります。でも今では、隠すよりもありのままの姿でいるほうが、本人にとって生きやすいと考えています。周囲の人も意外なほどあっさりと、「そうなんだ」という感じで受け止めてくれています。中には受け止めてくれない人や嫌なことを言う人もいますが、そのときは「しょうがないな。そういう人もいる」と割り切ればいいと話しています。

NF1と暮らすためのヒント

元気な盛りのお子さんは活発に動きまわりますが、NF1の状態によってはそれが骨折などにつながることもあります。こちらのお母様は、それを理解してもらおうとお子さんの身体の状態を学校側へありのままに伝えたところ、ご本人も周囲の方々も率直に受け入れてくれました。しかし、中には学校側が理解を示さない、あるいは過剰に心配する場合もあるようですので、その際は粘り強く毅然としたふるまいも必要でしょう。

できるだけのことを具体的に伝え、学校との意思疎通を深める

学校には「気になることは、“全て具体的に伝える”」というスタンスでいます。例えば、「骨折を避けるために体育は気をつけてください」ではなく「縄跳びと跳び箱はできません」と伝えると、先生も「ハードルはしてもいいのですか」「運動会の綱引きは参加できますか」と聞いてきてくれます。どう伝えればいい、あるいはあまり知られたくないなど、ご家族として不安な点も少なくないでしょう。ですが必要なことは明確に、そして具体的に伝えたほうが周囲も問題となる場面がイメージしやすく、より適切でスムーズな対処ができると思います。

学校とのそうした関係を強める意志もあって、授業参観の後に行われる学級懇談会などには積極的に参加しています。先生方も私の考えを受け止めてくださり、個人面談の時間も多く設けられるようになりました。

NF1と暮らすためのヒント

お子さんの生活の主体となる学校。何をどう伝えるべきかを悩むところですが、お母様は全て具体的に伝えられています。学校の先生方も、そうすることでより対処しやすくなり、お子さんのためにすべきことを積極的に考えようとしてくださるようです。

患者や家族に寄り添い、信頼できる主治医の先⽣がよりどころ

NF1は症状のあらわれ方が人によってまったく違い、中にはカフェ・オ・レ斑だけの人もいるようです。しかし、現状ではインターネットなどで情報を検索すると、中には非常に症状の強い事例を扱うものもあり、それで必要以上に怯えてしまう人もおられるのではないでしょうか。それは、ご本人やご家族の前向きさを阻むことにもなりかねません。

私は、娘に起こるかどうかわからない漠然とした不安よりも、「目の前にある現実に、前向きに対処する」ことへ意識を向けたいと思っています。そうしたことから、NF1を専門にしている医師ではありませんが、かかりつけ医となってくださっている小児科や耳鼻科の先生を、今は情報のよりどころとしています。皆さんも、主治医の先生へご自身の不安や疑問を納得いくまで質問して、コミュニケーションを深めてはいかがでしょうか。振り返ってみれば私も、不安なときは診察のたびに同じ質問をしていたように思います。その際に主治医の先生は、例えば遺伝や出産など娘の将来に関わる心配ごとにも答えてくださいました。

患者や家族に寄り添ってくれ、信頼できる先生の言葉こそ一番のよりどころになる。今、私はそう思うとともに、インターネットなどの情報もそうした方向へ進んでくれることを願っています。

NF1と暮らすためのヒント

巷には不安をあおるような情報も少なくありませんが、お母様はさまざまな経験を重ね、信頼できる主治医の先生をよりどころとしてコミュニケーションを深め、将来に前向きとなっています。こうした信頼できる医師との出会いが、病気と向き合う転機となる患者さんも多くいらっしゃるようです。

親が気にする見た目問題。本人はどこ吹く風

見た目問題については、私もかつては気になりました。ところが本人に聞いたところ、意外にも気にしていなかったのです。それ以来、「本人が楽でいられるのなら、それでいい」と考えるようになりました。今の娘は、ポニーテールも半ズボンもへっちゃらです。もちろん成長するにつれて、隠したくなるときがくるかもしれません。もし、隠すことで気持ちが落ち着くなら、それはそれでいいと思っています。

NF1と暮らすためのヒント

見た目問題による悩みも気になりますが、こちらのご家庭では小学生のご本人は意に介していないご様子。患者さんによって異なりますが、お子さんはご家族が心配するほど気にしていないことも少なくありません。もし、気にし始めたときは、ご家族の支えこそがご本人の前向きな気持ちや生きる自信の源になります。また、患者会や主治医の先生などに相談するのもいいでしょう。

悩まず、気になったらすぐ受診。的確なアドバイスは前向きさにつながる

受診のタイミングについては、いつが適切かは私もはっきりとはわかりません。ですが「気になったら早めに診てもらおう」とお伝えしたいです。

病院で診てもらったところで、すぐにNF1かどうかが確定するわけではありません。ただ、お医者さんに話を聞いてもらうことで、1人で悩んでいたときのもやもやした気持ちが少しは晴れるでしょう。先生からアドバイスをもらうこともできるでしょう。そうやって前に進んでいくことができるので、早めの相談をおすすめします。

NF1と暮らすためのヒント

こちらのお母様は、お子さんにみられた気になった症状で受診しNF1と診断されました。現実の受け入れは厳しいものですが、不安なままでいるよりも前向きに進むための一歩となります。気になったら早めの受診をおすすめします。その際、症状は人それぞれなので、主治医や専門医とよくコミュニケーションをとることが大切です。

経済的な負担は重要な問題。NF1も医療費助成の対象に

病気に関しての経済的な負担については、わが家ではあまり問題となることはありませんが、やはり大切な問題だと考えています。指定難病の医療費助成もあり、月あたりの自己負担額の上限を超えた金額になったときは補助してもらえる仕組みがあるので、ぜひ調べてみてください。

NF1と暮らすためのヒント

こちらのご家庭でも、経済的な問題は真剣に考えられているようです。NF1に関しても、症状の程度によって医療費公費補助(特定疾患)の給付対象になります。こちらの情報などもご参照ください

■難病情報センター https://www.nanbyou.or.jp/entry/5460#taisho

(参考:難病情報センター「指定難病患者への医療助成制度のご案内」 2023/11/08現在)

「愛されている」と自覚してもらいたい。だから一緒に悩み、泣く

将来、娘はたくさん悩むと思います。そんな娘に対して私は、「一緒に悩もう」「一緒に泣こう」と思っています。

思春期に娘とどのように関わるかはもちろん大切ですが、私は、それまでの関わり方がもっと大切だと感じています。我が家では、小さい頃から娘には「家族みんながあなたのことが大好きなんだよ」と伝えてきました。そして、そのように関わってきました。娘もきっと、「自分は愛されている」と感じてくれていると思います。私たちの思いが娘に伝わっていれば、思春期をはじめとした今後の辛い時間も、きっと一緒に歩んでいけるのではないでしょうか。

NF1と暮らすためのヒント

ご本人の成長に伴い、さまざまな悩みも尽きないことでしょう。そこに向けて「愛されている」と自覚してもらえるよう、こちらのご家族は普段からともに悩み、泣き、率直に愛情を伝えているようです。こうした家庭内のコミュニケーションも、日常には欠かせない大切なことでしょう。特に他人と比較しがちな思春期は、病気を持っている自分自身のことをありのままに受け入れ、そしてもっとも大切に考えているご家族の支えや愛情こそが、大人として生きていく自信へとつながります。

(2021年12⽉に取材)