医師とNF1患者家族による本⾳トーク

情報も専門医も限られるNF1。知りたいことはたくさんあっても、「知るすべがない」という悩みを持つ人も少なくありません。また、限られた診察の時間では、聞きたいことの全てを尋ねるのは難しいという患者側の悩みもあります。これは医師側も同じで、「もっと伝えたいのに」というもどかしい思いを抱えています。そこで本コーナーでは、NF1の専門医である名古屋大学医学部附属病院の西田佳弘先生と、お子さんを患者さんに持つお母様による「本当に知りたい」「ここを伝えたい」をテーマとした対談の様子を、前後編の2回にわたって紹介します。

ー対談された方

・西田佳弘先生

名古屋大学医学部附属病院
リハビリテーション科 教授

・患者さんのご家族

NF1と診断された小児のお子さんを持つお母様

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ー対談された方

・西田佳弘先生

名古屋大学医学部附属病院
リハビリテーション科 教授

・患者さんのご家族

NF1と診断された小児のお子さんを持つお母様

診断について:何をきっかけに、どのようなときに受診したらいい?

お母様

今回は、本当に知りたいことをうかがえる機会をいただき、ありがとうございます。

まずNF1の診断についてですが、そこには強い葛藤があります。“疑い”のままでは不安が残る。だからきちんと診断を受け、NF1と確定されれば次のことを考えたいけど、専門医への受診が難しいケースもあります。一方で、あえて診断を受けず“疑い”のままにしておきたいと望む方もおられると聞きました。私たちには、NF1という現実を受け入れるにはさまざまな困難があります。それを乗り越える糸口として、最初の受診にはどのように臨めばいいのかをお聞かせください。

西田先生

NF1の症状は人それぞれです。ですから、「何歳になったら」「このような症状が出たら」というタイミングを一概に示すことは難しく、受診しても診断がつかず「もう少し様子を見ましょう」となることが少なくありません。

これらを踏まえた上でお伝えしたいのは、NF1を正しく知ることが重要ということです。例えば、赤ちゃんにしみやあざのようなものが見つかり、その数の多さを心配してインターネットなどの情報でカフェ・オ・レ斑を知って、NF1への不安に苛まれるご家族も少なくありません。ですが、メディアは断片的で不安をあおる情報が多いものです。NF1に詳しい医師を受診していろいろと話すことで、すぐに診断はつかないにしても、症状は人によってさまざまであることや普通に日常生活を送る患者さんも多いことなど、病気に関するきちんとした知識が得られます。また、これから気をつけるべきポイントなども教えてもらえるでしょう。それらを知っておくことで、例えばすぐに診断をつけられない“疑い”の状態であっても、きっと不安はやわらぐはずです。

あざとNF1:多くみられるあざは、NF1によるカフェ・オ・レ斑なのでは?

お母様

私の娘は生後3か月で確定診断を受けたので、一般的に赤ちゃんの時期でも診断が可能だと思っていました。しかし、いろいろとお話を聞くうちに、決してそうとは限らないということもわかりました。NF1の専門医である西田先生でも、やはり小さなお子さんの診断は難しいのでしょうか。

西田先生

例えば3歳以下でカフェ・オ・レ斑を疑う症状だけ、というケースでは診断が難しいことも多いですね。こうしたお子さんでは、親もNF1であれば診断がつくこともありますが、そうでない場合はもう少し成長するまで様子をみることになります。

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お母様

カフェ・オ・レ斑以外で、NF1を疑うべき症状などにはどのようなものがあるでしょうか。

西田先生

まず、首から上の異常です。具体的には視力の異常や頭痛ですね。これらはまだ見つかっていない腫瘍がある疑いを示しています。背骨に原因が生じて腰の痛みやしびれを伴うこともあり、その他各種の痛みもみられます。これらの症状があらわれた際、私たちの施設(名古屋大学医学部附属病院)では、例えば頭部は脳神経外科、背中や腰は整形外科、その他の痛みは小児科などで検査を行います。NF1の症状は本当にさまざまで、鑑別のつかないものも多いのが実情ですが、いずれも注意すべき症候(病的変化)としてあげられます。

お母様

あざが多くて気になり、調べてみたらNF1を知ったという話をよく耳にします。そのときの検索キーワードは「茶あざ」が多いということも知りましたが、あざの多さとNF1は関係あるのでしょうか。

西田先生

「あざ」というのは、標準的にはぶつけたときにできる皮膚の変色を指します。これは皮膚の下での出血が引き起こしているものなので、出血が収まればやがてあざも消えます。

一方、NF1でよくみられるカフェ・オ・レ斑は生まれつきのもので、自然には消えませんから打撲によるあざとは異なります。しかし、カフェ・オ・レ斑はメラニン色素が増加しているため茶色に見えることから「茶あざ」と呼ばれるのでしょう。ちなみに生まれつきのあざは「母斑」と呼ばれ、カフェ・オ・レ斑以外にもいくつも種類があります。

このような違いがあるので、一般的にあざが多いといってもNF1と関係しているとはいえません。自然に消えるあざが多くあっても、NF1だとは考えにくいですね。もし、ぶつけた後にできるあざがなかなか消えないようならば、むしろほかの疾患、例えば血液関係のものを疑ったほうがいいかもしれません。

症状と検査:要注意な症状やサインとはどのようなもの?

お母様

先生もおっしゃるように、NF1ではいろいろな症状があらわれると聞きます。それらにも何らかの受診すべきサインはあるのでしょうか。また、こうした症状はこの診療科で診てもらおう、という指標はあるのでしょうか。それがあれば、私たちはとても助かります。

西田先生

そこが非常に難しいところなんです。症状が多岐にわたるということは、診療科が複数にまたがるということですよね。医師としては非常に幅広い分野にわたって深い知識が求められるわけで、とても1人で全ての領域をカバーすることはできません。

そうした実情を解決しようと、私たちは各診療科でNF1に精通した医師のネットワークづくりに取り組んでいます。例えば、私は整形外科が専門ですが、小児科や整形外科、眼科、脳神経外科をはじめ、複数の診療科で情報を共有し、症状に応じた受診の連携を図っています。また、それぞれの医師の知見を持ち寄って、年齢・症状などごとに推奨される検査の指標づくりにも取り組んでいます。同様の動きは国内のいくつかの病院で行われています。

確かに、今はご家族や患者さん本人が活用できる明確な指標やサインは、ほとんどありません。しかし、ご家族は患者さんの様子をよく見守ってあげてください。例えば、痛みです。子どもは痛みをよく訴えるものですが、それがいつもと違ってはいないか、長引いていないかなどをしっかりと観察するのです。その上で異常を感じたなら、受診するといいでしょう。

気になる症状がある場合は症状チェックリストを確認し、早めの受診をお願いいたします。

お母様

娘もたまに痛みを訴えますが、だいたい夜なんです。精神的なこともあるのか、さすると落ち着くことがほとんどです。ですから、昼間に生じたりさすっても治まらない痛みには注意していますね。歯痛で受診した歯科医で原因が見当たらなかったときも、自身の注意が喚起されました。こうした痛みは異常な症状で、NF1が関係しているかもしれないととらえています。

西田先生

まさにそれが「見守り」ですね。とてもいいことだと思います。

お母様

先ほど明確な指標はないとおっしゃいましたが、やはり重大なサインは知っておきたいと思います。何かわかりやすいものはありませんか。

西田先生

参考としていただきたいことはあります。まず悪性の腫瘍については、12~13歳以上で体の奥の方に固いもの・痛いもの、それらが前よりも大きくなるなどの症状があれば、その可能性があります。そうしたらすぐに専門医に診てもらってください。このことは、私も患者さんやご家族へ検査のたびに伝えています。

また、代表的な症状のひとつに側弯症があげられ、特にNF1に伴う側弯症は「症候性側弯症」が多く一般の側弯症よりも進行が速いことが特徴的です。これは肩の高さやウエストラインの非対称を診るほか、気をつけの姿勢で立ってから前かがみになるという方法で発見できます。正常な場合は背中の高さが左右同じですが、側弯症では高さが違います。これを試し、気になれば整形外科に相談するといいでしょう。側弯症は初期対応が肝心ですから、早期発見はとても大切です。

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日常での注意:日焼けや食べ物、乳がんにも注意は必要?

お母様

あと日常生活での注意点です。カフェ・オ・レ斑をはじめ皮膚に関する症状もあることから、日焼けなどが気になります。また、教育や給食などの点から食べ物にも心配が及びます。

西田先生

日焼けや食べ物がNF1にどう影響するかは、人それぞれだと思います。ですから、NF1だからこれに注意しなさい、というアドバイスはしていません。いろいろなことへの配慮は大切ですが、何事も過度な心配はむしろよくないでしょう。ですから、気をつけるべき皮膚疾患やアレルギーなどがあれば、それは皮膚科などの医師の指導にしたがってください。

お母様

成人になってからは乳がんにも気をつけるべきだと聞きました。その検査は何歳から受けるべきでしょうか?

西田先生

私は「20歳になったら定期的に乳がん検診を受けましょう」と言っています。NF1の患者さんは乳がんになる確率が一般よりも高いです。早期発見のために、検診も早めがいいでしょう。

お母様

なるほど、ありがとうございます。とても参考になりました。

MRI検査:頭部だけで十分?検査のリスクは?

お母様

NF1の検査についてうかがいます。NF1ではいろいろな症状があらわれるということですが、MRI検査については、私は主に頭部に行うというイメージがあるのですが。

西田先生

私たちの病院では身体の奥、特に腫瘍を見つけるため全身MRI検査を実施しています。例えば、腫瘍が身体の表面にあれば目視で判断できます。しかし、身体の中に生じる腫瘍は見つけにくく、発見が遅くなれば機能障害の原因となり、命にさえ関わります。それを防ぐためにMRIで全身を検査し、早い段階で身体内部の腫瘍を見つけようとしています。ただし、お子さんはMRI検査を怖がることが多いために鎮静剤を使う場合があります。

お母様

鎮静剤や麻酔という言葉に敏感な方も多いのではありませんか。私もそうかもしれませんが、やはり腫瘍があるかもしれないと思うとMRI検査はやむを得ないですよね。

西田先生

私は、NF1に関連した悪性腫瘍の発症頻度が高まる年齢帯を考え、そこまで検査しないリスクと検査をすることで生じるリスクを比べて、一般的に8~9歳ぐらいまでは全身MRI検査を待つようにしています。希望されればそれ以前に検査を行うことはありますが、リスクとベネフィットのバランスをしっかりと見極めた上で判断しています。とはいえ、NF1に対する全身MRIの重要性はまだ十分に認識されておらず、頭部にのみ実施するケースが圧倒的に多いようです。今後は、そのあたりの検討も必要かもしれません。

受診に際して:聞きたいことはどう伝える?よりどころとなる先生と出会うには?

お母様

診察を受けるとき、いろいろと聞きたいことがあります。それはもう、本当にたくさん。受診のとき、そうしたことはリストにしてお見せしたほうが伝わりやすいのでしょうか。

西田先生

私自身は賛成です。ご家族や患者さんは、かえって煩わしいのでは……と心配される方もおられるでしょう。ですが、限られた診察時間を有効に使うにはいい方法です。お母様がおっしゃるように、医師に聞きたいことは本当にたくさんあるでしょう。そうすると、あれもこれも思い出して継ぎ足すような質問を繰り返すと、時間が足りなくなってしまいます。こうした非効率さを避ける意味で、医師にとってもリスト化してもらえるのは助かる面もあるのです。

お母様

診察を受けるとなると、やはりよりどころとなる先生と出会いたいですよね。親身になってくださる先生との出会いは、とても大切だと考えています。

西田先生

私もそれを強調したいですね。親身に向き合ってくれる小児科の先生との出会いは、本当に大切だと思います。お子さんに異常があったとき、まず診てもらうのは小児科医ですから、その先生方はまさにNF1診療のキーパーソンではないでしょうか。確かに、1人の医師がNF1の全ての症状に対応するのは非常に困難です。しかし、小児科の先生が受診中の患者さんについて病状をよく知り、他科へ橋渡しなど状況に適した対応をしてくだされば、まさにNF1診療の重要な窓口となっていただけます。

お母様

確かにおっしゃるとおりですね。それと、診断にあたっては専門医の先生に診ていただくことも大切だと思います。しかし、どうすればいいのか迷うこともあって。

西田先生

専門医との出会いには、患者・家族会(患者支援団体)を活用するのもいいでしょう。患者・家族会には多くの情報が寄せられますから、そこでの交流や情報交換を通じて自分に適した専門医を知ることができます。確かに、かかりつけ医として日頃の相談に乗ってもらう小児科医の先生は重要な窓口です。しかし、患者さんそれぞれに最適な情報提供をしたくても、やはり限界はあります。その点、多くの患者さんやご家族が集まる患者・家族会は情報の収集や専門医の選択に大きな役割を果たしてくれます。

これからについて:治療方法はこれからどうなる?

お母様

私たちには、今後のNF1治療についても大きな関心があります。いったい今、どのような動きがあるのでしょう?

西田先生

現在、分子標的薬の研究が世界で進められています。分子標的薬とは、暴走により疾患を引き起こす遺伝子を特定し、それを標的として暴走を止めるものです。この知見がNF1の今後の治療につながるのではと期待しています。

西田先生からのメッセージ 

お母様

ありがとうございます。ここまで、私たち患者や家族の立場からの「気になる!」にお答えいただきました。続いて西田先生から、専門医の先生という立場から私たちに伝えておきたいことを教えてください。

西田先生

今回は、主にお子さんの患者さんやそのご家族に向けてお話しさせてもらいました。そうした方々にぜひ知っておいていただきたいのは、NF1には実にさまざまなライフステージの患者さんがいらっしゃるということです。例えば私が受け持っている患者さんの中には「もうすぐ孫ができる。だから少しでも長生きしたい」という方もおられますし、仕事にやりがいを感じながら毎日を過ごす若い世代の方もいらっしゃいます。

この方々は、「長生きしたい」「仕事を続けたい」という人生の目標を私たち医師と共有しています。その上で、「それならば腫瘍を手術で切除しよう」というように治療方針を決めています。つまり、治療は腫瘍を取るなどの行為を目的とするのではなく、目標に向けた手段になっているのです。

こちらをお読みくださる患者さんやご家族の方々とも、ぜひ皆さんの目標を共有させてください。皆さんのしたいこと、得意なことを聞かせてください。そこに向けて、治療を考えていきましょう。

私は、NF1の大きな課題は、専門医になかなかたどり着けないことだと考えています。専門医の少なさに加えて、症状の多様さというNF1特有の事情により、自分に合った専門医と出会うことが至難の業になっています。この課題を解決すべく、現在はシステムの構築に全力をあげています。必ず完成させますので、どうぞ期待してお待ちください。

また、NF1のためにできないことがあるのは確かなことでしょう。ですが、必ずできることもあるはずです。ぜひ、できることを見いだし、それを楽しみながら毎日を過ごしてください。NF1の患者さん、ご家族の皆さんが人生を存分に楽しんでくださることを、私は切に願っています。

(2021年12月に取材)