病院を探す 症状チェックリスト

先輩からのメッセージ ~病気の娘は「かわいそう」じゃない。理解し応援してくれる社会を目指して~

6児のママである大河原和泉さん。末っ子の紬乃(ゆの)ちゃんが生後3か月でレックリングハウゼン病(神経線維腫症1型、NF1)と診断されたことをきっかけに、患者・家族会である「To smile」を立ち上げ、さまざまな情報を発信しています。活動をする中で、どのような相談や悩みに向き合っているのか、そしてご自身の子育てや子どもの病気への向き合い方について話をうかがいました。

“悩むのは私じゃない” 娘の病気をきっかけに患者会を立ち上げ

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現在、小学2年生の紬乃ちゃんは、生後3か月でレックリングハウゼン病と診断されました。

大河原さん「紬乃は生後2か月くらいから身体に茶色いしみ(レックリングハウゼン病の症状のひとつ)が増えてきました。3か月健診では“健康”といわれたのですが、たまたま次女のニキビ薬をもらいに行ったときに、医師がこのしみに気づき、大学病院の紹介状を書いてもらい、そこでレックリングハウゼン病と診断されました。

最初に医師に言われた言葉は、『絶対にインターネットで検索しないように』。でも、そういわれると検索しますよね。そこで目にしたのは、偏見や誹謗中傷に満ちたネガティブな情報ばかりだったんです。

『こういう病気なのね……娘の将来はどうなるんだろう』と診断後は落ち込みました。でもすぐに、“本当に将来悩むのはこの子なのだから、私は悩んじゃいけない”、“私が悩んだら、この子は生まれてきたことを後悔してしまう” と、まずはネット上の間違った情報を変えようと気持ちを切り替え、子育てを楽しむ様子の発信をはじめたんです。そこから輪が広がり、患者やその家族が交流できる場「To smile」を立ち上げました」

目の前で笑っている赤ちゃんは、不憫じゃない

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実際に、「To smile」にはどのようなお悩みや相談が寄せられているのでしょうか。

大河原さん「今はネットの情報もだいぶ変わってきて、相談内容も変わってきていますが、以前はコミュニティを頼ってくる方の相談は、深刻な場合がほとんど。とくに、子どもがレックリングハウゼン病と診断された直後の絶望された親御さんからの相談が多く、現実と向き合えず、精神的に不安定になっている方もいました。ある方は『カーテンを閉め、部屋の電気を消して3日間泣き続けた。この子が不憫でかわいそうだ』と。そんな時は『目の前の笑っている赤ちゃんを見て。この子が不憫な顔をしてる?大切なのはこれからの育て方なんじゃないかな』と伝えました。

レックリングハウゼン病は遺伝性と、子どものNF1遺伝子が突然変異して発症する孤発性があります。遺伝性でも孤発性でも、多くの母親は“健康に生んであげられなかったのは自分のせい”だと罪悪感を持ってしまうことがあります。でもそう思うのは、『母親だから抱く感情。子どもへの愛情に自信を持ってほしい』と思います」

多くの人が悩む“子どもへの伝え方”と“話すタイミング”

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大河原さん「先日、70代の方から連絡がありました。“娘が孤発性のレックリングハウゼン病だった。でも娘に病名を告げたら娘が人生を悲観してしまうのではないか、それが怖くて、本人にきちんと病名を告げて適切な医療を受けさせることが出来ぬまま、腫瘍が悪化して娘は亡くなってしまった。もし早くから適切な専門医に診ていただいていたら、手遅れにならなかったかもしれない。今は娘の忘れ形見の遺伝性のレックリングハウゼン病と診断された4歳になる孫を育てている。もう同じことを繰り返さないように、この病気に積極的に関わっていきたい”と。

このように親が子どもに病気を伝えられず、知らないまま大人になっていくケースも、多くあります。昔は情報が乏しかったのもありますが、今は“わかっているからこそ言えない”ということも。コミュニティ内の方からは、“子どもにどう話すか”や“話すタイミング”についてよく相談を受けます」

母斑(しみ)は恥ずかしいもの、隠すものではない

日々寄せられるお悩みや相談にたいして、大河原さんはどのようにお返事しているのでしょうか。

大河原さん「ひたすら向き合っていく。そして“私はこうしているよ”ということを理由とあわせて伝えています。それを聞いてどう対応するかは、各家庭の判断だと思っています。
私の場合は、紬乃が3歳の頃、母斑を指さして『これなぁに?』と聞いてきたので『バースマークだよ』と教えました。母斑を英語で言うと、“バースマーク”。なんかカッコよくないですか?交通ルールを教えるのと同じように、病気についても成長に合わせてわかりやすく伝えています。

本人が中学・高校生になってからいきなり伝えるほうがショックは大きいかなと思い、小さなころから病気について話すことを日常生活の中で当たり前のことにしています。『バースマークは恥ずかしいもの、隠さなくちゃいけないものではないよ』と伝えていますね。

人って、知らないものを怖れる性質がありますよね。当事者が隠すから周囲は病気のことを知らないし、症状だけを見て偏見を持ってしまうこともある。だから、娘には病気を自分で説明できるようになってほしいんです。 “こういう病気があって、こんな症状があるんだよ”と。本人の言葉で伝え、周囲に知ってもらうことはとても大切だと考えています」

プラスに発想転換すれば、チャンスはきっと訪れる

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レックリングハウゼン病の症状は、成長に伴い変化することも特徴です。

大河原さん「病気にかぎらず、子どもの成長に合わせて、必要な支援は変わってきます。だからこそ、その子の個性に合わせた育て方ができればいいですよね。その時できるベストを尽くすことが大事であって、「やり方」に集中しすぎないで、「あり方」に集中できたらいいと思っています。

社会や病気を恨んでいるうちは、なかなか次の一歩へ進めない。紬乃にチャンスはそう沢山はないかもしれないけれど、きっと訪れる。そのチャンスを掴んで、生き抜く力をつけてほしいから、どんなこともプラスに発想転換してほしいと育ててきました。失敗しても、できないことがあっても、何度でもやり直せばいいんです」

子どもの成長過程の中でも、環境が変わったり、交友関係が広がったりする思春期は特に大事な時期だと大河原さんは話します。

大河原さん「思春期は、多感でかつ人生において軸になる大切な時期だと思うんです。紬乃にもそういう時期が必ずきます。その時に隠れないでほしいし、自分の言葉で話せる人であってほしい。年頃の子どもをもつ親御さんには一人じゃないよ、見守っているよと、いつも寄り添う味方でいてほしいなと思います。子どもも親も、胸をはって自分の人生を歩んでほしいですね」

がんばる姿を応援してほしい。そして、誰もが生きやすい世の中へ

家族、友だち、そして社会のなかで孤独を感じてしまう。それは「解決できない、わかりあえないと思ってしまっているから」と話す大河原さん。

大河原さん「孤独感は、病気や障害を持った当事者や親御さんすべてに共通していること。だからこそ、ネットワークが大事なんです。患者会では、悩みを打ち明けた方には、“ありがとう”というメッセージが送られ、“なんでも打ち明けていいんだ”“一人じゃない”という、支え合える関係性ができています。一人の一歩が集まれば、相乗効果でみんなが良い方向へ向かうと信じています」

最後に当事者やその親御さん、周囲にいる方へ、メッセージをいただきました。

大河原さん「この病気は、症状やその程度も人により異なるため、定期的な受診や検査がとても大切です。当事者や親御さんへは、定期受診の大切さをあらためて伝えたいです。
そして周囲の方へは、レックリングハウゼン病の方は、決してかわいそうではないということ。かわいそうだから助けてほしい、特別扱いしてほしいのではなくて、その方なりに頑張っていることを社会で応援してほしいですね。まずは病気について知っていただき、少しずつ理解が深まっていけば、誰もが生きやすい世の中に変わっていくのではないかと思います」

(2024年10月に取材)