どんな病気ですか?
レックリングハウゼン病やNF1とも呼ばれ、カフェ・オ・レ斑と神経線維腫を主な症状とします。そのほか、骨、眼、神経系などに症状が出ることがありますが、命にかかわることはごくまれです。

患者さんによって、症状の種類や程度は大きく異なります。

1人の患者さんにすべての症状があらわれるわけではありません。また、患者さんによってあらわれる症状の種類や程度もそれぞれです。
定期的に受診していただきたい病気です。

成長に伴って新たな症状が出てくる可能性があるため、神経線維腫症1型の患者さんは医師による定期的な診察を受けることが推奨されています。
何が原因で起こりますか?
細胞の変化や数の調整に重要な役割を持つ遺伝子の変化が原因と考えられています。
神経線維腫症1型は、NF1遺伝子の変化が原因と考えられています。遺伝子とは、親から子に伝えられる体の設計図のようなものです。NF1遺伝子はニューロフィブロミンというたんぱく質を作るための設計図です。
ニューロフィブロミンの機能は大きく分けて2つあります。
1つ目は、皮膚の色素を作る細胞や神経、顔の骨など、体の様々な部位がきちんと作られるように細胞の変化を調整することです1)2)。
図1.細胞の変化にNF1遺伝子が関わっている体の部位

図2.神経線維腫症1型の人の細胞変化の例

2つ目は、細胞の数が増えすぎないよう適切な量に調整することです。
図3.神経線維腫症1型の人の細胞増殖の例

NF1遺伝子にある種の変化が起こると、正常なニューロフィブロミンが作られなくなります。結果として、細胞の変化や数の調整がうまくできなくなり、体に様々な症状が生じます。
患者さんはどれくらいいますか?

出生、約3,000人に1人の割合で発症するといわれています(海外データ)3)。
この割合に性別や人種による差はありません。

日本の患者数は約40,000人と推定されています4)。
この遺伝子の変化は子どもに遺伝しますか?
両親のどちらかのNF1遺伝子に変化があれば、子どもには50%の確率で遺伝します(遺伝性)。
しかし、患者さんの半数以上は両親のNF1遺伝子に変化がなく、子どものNF1遺伝子が偶然変化することで発症します(孤発性)。

どんな症状があらわれますか?
カフェ・オ・レ斑
- 淡いミルクコーヒー色~濃い褐色のしみ・あざです。
- 神経線維腫症1型の患者さんでは全身に6個以上みられることが多いです。
- 平らで盛り上がりがなく、丸みを帯びた滑らかな輪郭のだ円形のものが多いです。
- 多くは出生時、遅くても2歳までにはみられます5)。

神経線維腫(しんけいせんいしゅ)
- 皮膚や体の内部、神経に沿ってできる良性の腫瘍です。(神経を包んでいる細胞が無秩序に増えるために発生します。)
- ほとんどは命にかかわらない良性ですが、大きなものはまれに悪性化することがあります。
- 皮膚の神経線維腫、神経の神経線維腫、びまん性神経線維腫※1、叢状神経線維腫(そうじょうしんけいせんいしゅ)といった種類があります。
※1 「びまん」とは、特定の1か所ではなく広範囲に広がっている様子を意味します。 - 皮膚の神経線維腫は、思春期以降に約95%の患者さんでみられます。数や大きさによっては手術で切除することがあります。
- 叢状神経線維腫(そうじょうしんけいせんいしゅ)※2は、体の内部にできた神経線維腫が大きなかたまりとなり、体の表面が盛り上がるなどの症状が起こるものです。
※2 「叢」は「くさむら」を意味する漢字で、「叢状」とは、くさむらのように多くのものが1か所に集まっている様子を意味します。
皮膚の神経線維腫

叢状神経線維腫

雀卵斑様色素斑(じゃくらんはんようしきそはん)
- わきの下や足の付け根に、そばかすのような斑点ができます。
- 1歳頃から小学校入学前の幼児期に、約95%の患者さんでみられます。

虹彩小結節(こうさいしょうけっせつ)
- 小さな粒のようなものが眼の虹彩(瞳の茶色い部分)にあらわれます。
- ほとんどの場合、視力への影響はありません。
- 0歳から18歳くらいまでの小児期に、約80%の患者さんにみられます。
- この病気に特徴的な症状なので、診断の手がかりになります。

視神経膠腫(ししんけいこうしゅ)
- 視力の低下や左右の目の視線がそろわない、無意識に眼球が揺れるなどの症状がみられる場合があります。
- 無症状の場合や、自然に消える場合もありますが、失明につながる可能性もあります。

発達障害
- 幼児期から学童期頃にかけて徐々にあきらかになることがあります。
具体的には
- 注意力が続かず忘れ物やミスが多い
- コミュニケーションがうまくとれず、周りになじめない
- 学習につまずきがあり、通常の学習方法で改善されない
などの特徴がみられます。

骨の症状
- 頭や体の骨が変形している、または、一部の骨が生まれつき欠けていることがあります。

その他
- 乳がんや白血病など、他の悪性腫瘍を合併する割合は、神経線維腫症1型でない人よりも高い傾向にあることがわかっています。
- てんかんを合併する場合があり、その可能性は約6~14%といわれています。
どのように診断するのですか?
症状から診断する方法と、遺伝子を検査する方法の2種類がありますが、通常は症状から診断します。
症状による診断では、臨床的診断基準7項目のうち2項目以上が該当するかで診断されますが、患者さんによっては1つしか症状がみられず、一時点での状態だけでは確実に診断ができない場合があります。
臨床的診断基準についてはこちら
他の病気と区別するために遺伝子診断を行うこともありますが、保険適用外(2021/12/01時点)で、その費用は全額自己負担となります。

どのような治療を行うのですか?
基本は症状による影響を和らげる治療を行います。
まず、神経線維腫症1型を専門の一つとして診療している医師の診察を受け、症状に合わせて治療法を決めていきます。皮膚の症状であれば皮膚科や形成外科※1、骨の異常であれば整形外科※2など、症状に合わせて各領域の医師と連携する場合があります。
軽症であれば、治療を行わずに様子をみることもあります。
成長に伴って他の症状があらわれる可能性があるため、医師による定期的な診察を受けることが推奨されています。

※1 形成外科とは、生まれながらの異常や、病気や怪我などによってできた身体表面が見目のよくない状態になったのを改善する(治療する)外科で、頭や顔面を含めた体全体を治療対象にしています6)。
※2 整形外科とは、体の芯になる骨・関節などの骨格系とそれを取り囲む筋肉やそれらを支配する神経系からなる「運動器」の機能的改善を重要視して治療する外科で、背骨と骨盤という体の土台骨と、四肢を主な治療対象にしています6)。
- 1) Shyamala K. et al.: J Oral Maxillofac Pathol 19(2): 221-229, 2015
- 2) Gitler AD. et al.: Nat Genet 33(1): 75-79, 2003
- 3) Evans DG. et al.: Am J Med Genet A 152A(2): 327-332, 2010
- 4) 高木 廣文ほか: 厚生省特定疾患神経皮膚症候群調査研究 昭和62年度研究報告書: 11-15, 1988
- 5) 倉持 朗: 小児科 58(10): 1177-1194, 2017
- 6) 公益社団法人 日本整形外科学会: 整形外科と形成外科, https://www.joa.or.jp/public/about/plastic_surgery.html, 2021/12/01確認