ご覧いただいている方の中には、「症状が軽い、または特に困ったこともないので、病院には行っていない」、「幼い頃に診断されたけれど、親からは病院に行かなくてよいと言われた」という方もいらっしゃるかもしれません。しかし、実際はどうなのでしょうか?
神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病、NF1)患者さんにおける定期受診の大切さについて、鳥取大学医学部附属病院の吉田雄一先生に詳しくご解説いただきました。
ーお話をしてくださった方
・吉田雄一先生
鳥取大学医学部 感覚運動医学講座 皮膚科学分野 教授
ーお話をしてくださった方
・吉田雄一先生
鳥取大学医学部 感覚運動医学講座 皮膚科学分野 教授
生涯つき合っていく病気、大切なことは定期受診
神経線維腫症1型患者さんにとって、体調に変化があったときに相談できる専門病院を見つけておくことはとても大切です。そして、定期的に病院を受診することはさらに重要です。その理由は4つあります。
1.症状の個人差が大きく、またその予測ができないため・・・ 神経線維腫症1型によって起こる症状はとても幅広く、どのような症状がでるのか、症状の重さがどれくらいか、など患者さんによって違います。現時点(2025年1月時点)では、個々の患者さんがどのような経過をたどるのかを正確に予測することは難しい状況です。そのため、定期的に病院を受診していただき、その時点での患者さんの病状にあわせて治療を行うことが大切だと考えています。
2.自分では気がつきにくい症状や、早めの対処が必要な症状があるため・・
例えば、体の表面や内部にできる大きな腫瘍(叢状神経線維腫[そうじょうしんけいせんいしゅ]:神経が集まってできる腫瘍)は、痛みなどいろいろな症状を引き起こしたり、悪性腫瘍(がん)に変化するリスクがあるやっかいな症状です。昔は、この腫瘍がある患者さんはそれほど多くはないと考えられていたのですが、最近では50~60%の方にあると報告されています1,2)。体の奥にある場合には外から見えず、ご自身ではなかなか気づくことができないため、画像検査が必要となります。
また、背骨の変形は、思春期に約10%程度にみられ、急いで治療が必要となる症状の1つです。おじぎをしたときに肩の高さが違うなど、ご家庭でわかるサインもあるのですが、症状の進行が早い場合もあるので、早期に専門の医師に診ていただくことが重要になります。
「頭痛」という症状1つをとっても、片頭痛なのか、この病気でまれにできる脳の腫瘍が原因なのか、他の原因があるのか、など複数の可能性が考えられます。病院を受診していただければ、その原因や治療の必要性を判断することができます。定期の受診時に、気になる症状があれば、早めに医師に伝えていただくことが大切です。
3.悪性腫瘍(がん)を早期に発見するため・・・
神経線維腫症1型患者さんは、そうでない人と比べて悪性腫瘍を合併しやすいことが明らかになっています。特に、乳がんの発生リスクが高く、神経線維腫症1型患者さんはそうでない人の約3倍の頻度で発症するという報告もあります(海外データ)3)。この病気では、皮膚にできもの(皮膚の神経線維腫)ができることが多いですが、「胸のできものが大きくなってきたせいで、こすれて痛い」と思っていたら、実はその原因が乳がんであったという場合もあります。一定の年齢に達した患者さんにはあらかじめリスクをお伝えし、特に女性患者さんには成人後の乳がん検診を推奨しています。
さらに、先ほど述べた悪性化する可能性がある腫瘍の確認など、患者さんごとになるべく早期に悪性腫瘍を発見するための対応が重要だと考えています。
4.個々の患者さんに応じた新しい情報を知るため・・・
症状に個人差が大きいことや年齢ごとに出やすい症状があることから、患者さんの病状や年齢にあわせてお伝えしたい情報があります。また、患者さんのライフイベントや悩みに対して、適切なアドバイスを行うことができるかもしれません。
神経線維腫症1型は近年研究が進んでおり、従来は有効な治療法がなかった症状に対して、新たなお薬も登場しています。さらに、現在治療が難しい症状に対して、近い将来に新たな治療法が見つかる可能性も高まっています。神経線維腫症1型の最新情報をわかりやすくお伝えし、現時点で選択できる最適な治療を患者さんに提供するためにも定期受診をお勧めします。
神経線維腫症1型は、生涯つき合っていく病気です。大切なことは、不安を感じた時に相談できる病院があること、特有の症状を見逃さないようにすること、そして必要な検査や適切な治療を受けられるようにしておくことです。そのための環境づくりこそが、定期受診なのです。
受診の頻度や診察の内容は患者さんの状況にあわせて
鳥取大学医学部附属病院
皮膚科では、症状が出ていないお子さんであれば半年に1回程度、大人であれば1~2年に1回程度の頻度で病院に来ていただくようにしています。ただし、患者さんの個別の症状により、受診間隔を調整しています。
皮膚科では主に、皮膚のできもの(皮膚の神経線維腫)の治療を行なっています。病変は、数が多く1度に全部取り切れないことや、お顔など生活に大きくかかわる部位にできることもあります。患者さんと相談し、短めの間隔で受診していただき、定期的に手術を計画することもあります。
このように患者さんの病状にあわせて検査や治療を行っていきますので、担当医師と十分に相談の上、受診をお願いします。
病院に来ていただいた際には、患者さんの健康状態を確認するため、現在何か困っていることがないか、前回お会いしたときから変わったことがないかを詳しくお聞きしています。全員に一律に行っている検査はなく、患者さんの年齢や病状の変化に応じて、特定の部位を調べたり、他の診療科の医師に診ていただいたりしています。

まず、受診先を探してみよう
ご覧いただいている方の中には、どの病院に行けばよいのかわからない、通院を中断して受診しなくなってしまったという方もいらっしゃると思います。元々通っていた病院がある方は、再度相談してみるのもよいでしょう。もし思い当たる病院がないという方は、日本レックリングハウゼン病学会(神経線維腫症1型に携わる医師の団体)が、この病気に詳しい医師や専門病院を紹介していますので、ご参考になさってください。
医療機関を受診する際には、受診時に紹介状と予約が必要となる場合が多いため、かかりつけの医師に「専門の病院を1度受診したい」と伝え、紹介状を書いていただきましょう。他の病院を紹介してもらうことは少し勇気がいると思います。しかしながら、医師は日常的に紹介状の作成を行っていますし、神経線維腫症1型の患者さんを専門の医師がいる病院に紹介する動きは徐々に広まってきています。あまり思い悩まずに、1度相談してみてください。
紹介先の病院を受診する前には、あらかじめ心配していることや聞きたい症状などについて整理し、準備しておくとよいかもしれません。特に、遠方からの受診や多忙な日常の合間をぬっての受診となる患者さんも少なくないと思いますので、限られた診察時間を有効に活用し、適切な治療につながることを願っています。
紹介先の病院を受診したものの、家が遠いなどの理由で通院を継続することが難しい方もいらっしゃるかもしれません。そのような場合は、地域の医療機関と連携し、診療の役割を分担ができる場合がありますので、担当医とご相談ください。
医療機関については、こちらもご確認ください
医療機関については、こちらもご確認ください
最後に
受診の際に伝えられた言葉にショックを受けて病院に行くのを止めてしまった、どこの病院を受診すればよいのかわからなかったなど、定期受診をなさっていない患者さんにはさまざまな事情や理由があるかと思います。しかしながら、近年日本では複数の診療科や医療関係者で連携して、神経線維腫症1型の診療を行う病院が増えています。患者さんには、定期的に受診を行うことで、ご自身の病状と最新の医療情報と照らし合わせながら、最適な治療を受けていただきたいと考えています。
医療技術は年々進歩を遂げており、神経線維腫症1型の診療も大きく変化しています。今後、新たな治療法も期待されています。このような未来への希望を持ちながら、現時点で最適な治療を受けていただくためにも、できるだけ多くの患者さんが定期的に受診を行ってくださることを願っています。
1)Plotkin SR. et al.: Plos One 7(4): e35711, 2012
2)Jett K. et al.: Am J Med Genet A 167(7): 1518-1524, 2015
3)Uusitalo E. et al.: J Clin Oncol 34(17): 1978-1986, 2016
(2025年1月に取材)