「どうしてできないの?」衝突してしまうことも

生活には支障なく過ごしていた美咲さんでしたが、幼稚園に入る頃から、ちょっとした違いがみられ始めます。双子のお兄ちゃんと比べて、明らかに物覚えが悪いのです。麻衣さんはインターネットで調べて、NF1の症状に学習障害があると知りました。小学校に入ってからもお兄ちゃんとの差が開くばかりなので、病院で検査を受けることにしました。


検査の結果、美咲さんには学習障害があることがわかりました。特に苦手なのは、図形や計算の応用問題。単純な計算問題は解けても、少しひねった問題になると、どう考えればいいのか、問題の意図を理解するのに時間がかかりました。 小学校の先生に検査結果を伝え、「このまま普通学級に通い続けるのか、特別支援学級に移るのか」を相談しました。小学校の先生からは、「差はありますが難しいわけじゃないんですよね?だったらサポートはしますのでこのまま普通学級に通いませんか?」と提案されました。


悩んだ末に麻衣さん・美咲さん親子が出した結論は「このまま、普通学級に通い続ける」。美咲さんは振り返ります。「学ぶのに時間はかかるけれど、まったくできないわけではありません。周りの子たちと一緒のクラスを選びました。そのまま小学校、中学校、高校と普通学級に通い続けることができたので、私にとっては、あのときの選択はよかったと思っています。いろんな先生にサポートしてもらい、恵まれていたと思います」
当時のことを思い出しながら「国語もダメだったな」と、美咲さん。周りの子がスラスラと読める音読でも、つまずくことが多かったと言います。放課後、担任の先生が個別に指導してくれたこともあって、なんとかついていくことができていました。


しかし、学年が上がり、勉強のレベルが上がるにつれ、できないことがどんどん増えていきます。ときには「どうしてできないの?」と、親子間で軽い衝突も。図形、空間の把握が苦手な美咲さんは、定規を使っても線をうまく引くことができませんでした。麻衣さんは言います。
「自分が当たり前にできていることに苦労している美咲を見て『どうして?』と。ハサミで紙をまっすぐに切ることも苦手だし、裁縫なんて、あきれるほど何もできませんでした。でも、そこで怒っても仕方ありません。受け入れて、必要な場面では私が手助けしてきました」
麻衣さんの言葉に美咲さんは「そうそう、ほんとにひどかった」と笑って応えます。


学校では、友だちの支えがあったようです。
「中学校では吹奏楽部に入りました。大会で演奏する曲の楽譜を台紙に貼りつける作業があったのですが、画用紙に線を引いて、切って、のり付けして……と、私の苦手なことが盛りだくさんで。友だちは数分でパパッとできるのに、私にはできない。うんうんうなっていると、友だちが『もう~、貸して!』って、私の定規とハサミであっという間に終わらせる。『仕方ないな~』と笑いながら助けてくれるのが、3年間続きました」

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BIOGRAPHY & Words
おなかに、うっすらとしたあざ「なんだろう?」 「どうしてできないの?」衝突してしまうことも 「病人扱いされたくない」同級生以外には病気を伏せていた 初めて感じた、勉強のおもしろさ「普通が、すごいこと」 考えるのは自分、決めるのも自分 資格を取得し、歯科医院に勤務でも、状況が変わって…… 自分の経験を活かせる、人の助けになる仕事がしたい