「最初にNF1という病名を聞いたときの記憶はないんです」
と、長男の亮さんが語るのも無理はありません。皮膚のかゆみを訴えるわが子を連れて母・真由美さんが皮膚科を訪れたとき、亮さんはまだ3歳でした。
亮さんの皮膚の様子を診た医師が発したのは、聞き慣れない病名でした。
「レックリングハウゼン病(NF1)かもしれません」
あせもか、アトピー性皮膚炎だろうと考えていた真由美さんは初め、聞き取ることができず「レックリング……なんですか?」と聞き返しました。すると医師は「レックリングハウゼンという人が最初に報告した病気で……」と言いながら、診察室の奥で医学書を開き始めました。
「どういうことですか?」と改めて質問した真由美さんに、医師は「お母さんも同じ病気かもしれませんから、大学病院で診てもらったほうがよいと思います」と告げます。真由美さんは言われるまま、幼い亮さんの手を引いて、紹介された大学病院の皮膚科を受診しました。
そこで真由美さんは「今も忘れることができない」経験をしたと言います。大学病院を受診した日、NF1に詳しい医師はあいにく不在でした。落胆していると、担当の女性医師から「写真を撮らせてください」という申し出がありました。
「写真撮影と検査のために、私と息子は別々の部屋に連れて行かれました。それだけでも不安なところに、『お母さん、服を脱いでください』と言われました。抵抗感はありましたが、診断のためならと自分を納得させて、衣服を脱ぎました。すると5~6人の研修医が続々と部屋に入ってきて……。多くの人に取り囲まれる中、説明もなく何枚も、体の写真を撮影されました」

そのときのことを「涙が出そうでした」と振り返る真由美さん。「NF1は希少疾患ですから、記録に残したい、研修医に経験を積ませたいという意図があったのだろうと、今なら理解できる部分もあります。でも、あのときは、あんな扱いを受けたことが悲しくて仕方がなくて……。もう少し配慮と説明をしていただきたかったです」と、語気を強めます。
受けたショックが大きく、真由美さんはしばらくの間、病院から足が遠のいてしまいました。そのため、NF1について詳しい説明を受ける機会はなく、母子ともに確定診断を受けることのないまま過ごすことになりました。
今から約30年前、インターネットはまだ、今のようには普及していませんでした。真由美さんはNF1についての情報や患者体験談がまとめられたWebサイトを探し出し、少しずつ根気よく、独自に知識を深めていきました。